easy-read版「知的障害がある親の子育て支援者向け実践ガイド」
「知的障害がある親の子育て支援者向け実践ガイド」(Good practice guidance on working with parents with a learning disability)については既にお伝えしたが(下記参照)、これのeasy-read版があった。同じタイミングで出たのではなく、後から公開されたようだ。
ひととおり目を通したので、このeasy-read版について紹介する。*1
なお、知的障害がある親の子育て支援全般についてはこちらを参照されたい。
※知的障害のある親の子育て支援(mnagawa's site)
わかりやすい情報提供(情報アクセシビリティ)やeasy-read版については、こちら。
※知的障害者にもわかりやすい成果報告のプロジェクト(mnagawa's site)
入手先
まずいわゆる一般版の紹介については、以下の通り。*2
→知的障害がある親の子育て支援者向け実践ガイド(英国)(misc., 2007-12-18)
→知的障害がある親の子育て支援者向け実践ガイド(英国)(その2)(misc., 2007-12-25)
そして、そのeasy-read版はこちら。一般版も同じ場所から入手可能。
→http://valuingpeople.gov.uk/dynamic/valuingpeople115.jsp
→http://www.changepeople.co.uk/default.aspx?page=9545
このページを公開している CHANGE や Valuing People Support Teamについても紹介しなければならないが、それはまた別の話とする。
なお、一般版だけなら英国保健省サイトにも公開されている。
→Good practice guidance on working with parents with a learning disability (DH)
概観
2007年1月に一般版が発表され、同年6〜9月には親向けの学習ミーティングが開催されたことについては、既に紹介したとおりである。このeasy-read版は、そのときの資料成果に基づいて作成されているのかもしれない。
中身は、シンプルに、クリアーに書いてある。
一般版だと細かいことを書き加えているであろう部分をシンプルにクリアーに書き、メッセージをはっきりと伝えるようにしている。
メッセージを簡単にまとめると、次のようになろうか。
“子どもの幸福と健康が最も重要であり、子どもには安全でサポーティブな環境が必要である。だから良い家庭、良い親が重要。知的障害がある親にもその責任があり権利がある。彼らは良い家庭を築くために支援を利用できる。周囲の支援者は彼らがよい親となるための支援を連携して行っていかなければならない。云々。”
これを読むと幾つかのことに気付くだろう。
- まず、知的障害のある親の子育て(あるいはペアレンティング/parenting)を肯定することを基本原則としている。*3
- この基本原則は、権利である。
- この基本原則は、支援を前提としている。
でもこれらよりも興味深いのは、次の1点、
- 子どもの安全と安寧が第一に強調されている。
ことではないか。
これはたぶん、このeasy-read版が親あるいはこれから親となる人(parents-to-be)が読むことを前提としている点も影響していると思われる。親に対して、あんたらの子どもが一番大事なんだよ、だからあんたらも子育てをきちんとやって権利侵害してはいけないよとの気持ちも込めているのだろう。だから一緒に子育て頑張ろうね、私たちも協力するよとのメッセージも感じるし、同時に、でももしダメだったらあんたらより子どもの優先して考えるからね(つまり児童保護プログラムを発動するからね)との裏のメッセージも見つけられるだろう。
そう言いつつも、このレポートは親との関係を形成することに留意しようとしている。他の文献を見ても、親にとって、近づいてくる支援者は自分から子どもを引き離す奴らだと不安になるために、信頼関係を作ることはとても大事だとされている。そして親であることを肯定し、その権利があることを主張し、必要な支援を利用しながら家族であることを守りなさいと言っている。そのあたりの気っ風の良さはたいしたものだ。まずは親を認め励まそうということなのだろう。(保護プログラム発動の話はまた後で触れられる)
以上が基本的なトーンである。
もうひとつ一般版との違いを指摘するならば、コミッショニング(commissioning)に関するパートがこちらにはないことか。
基本構成
作者は明示されていない。CHANGE が作ったことははっきりしている。絵の提供は CHANGE の Words to Pictures プロジェクトが関わり、発行が CHANGE となっている。
目次は以下の通り。
はじめに
パート1 知的障害のある親を支える
1.わかりやすいやりかたで情報を伝える
2.よりよい支援を得るために助けてくれる、ケアチームやサービスのさまざま
3.できることを踏まえて良い支援につなげる
4.必要なときは、ずっと長く支援する
5.あなたの権利を守るパート2 知的障害のある親の子どもを侵害から守り、親や家族を支えていくための、よりよい実践
6.子どものニーズを満たす/良い実践のために
7.親の権利について/良い実践のために
8.評価について/良い実践のために
9.支援について/良い実践のために
10.専門職やサービスについて/良い実践のためにパート3 もっとたくさんの情報があります
11.政府による、専門職に対するガイダンス
12.使える社会資源について
では次に、パート1とパート2について眺めてみよう。
パート1
パート1では、子どもの権利と親の権利がそれぞれ示され、子どもの幸せが最も重要だとするメッセージがゆっくりと丁寧に書かれている。趣旨は『概観』で示したとおりだろう。
これに加えて、5 keys が紹介されている。5 keys の提唱は一般版と同じ。再掲するとこうなる。easy-read版ではやや優しく書かれているが、趣旨は同じ。
- わかりやすい(accessible)情報とコミュニケーション
- 照会・アセスメントの手順と手続き、適性な適用基準、ケアの方針のいずれもが明確でよく調整されていること
- ニーズとストレングスのアセスメントに基づき、親と子どもに合わせてデザインされた支援ができること
- 必要に応じて、長期の支援も可能であること
- 個別のアドボカシーが利用できること
たとえば「わかりやすい(accessible)情報とコミュニケーション」のセクション(key)では、親にとってわかりやすい支援の仕方と混乱させる支援について簡潔に示してある。興味深いのは、学校の先生も親にわかりやすく話しましょうねと指摘してあるところか。
また、知的障害のある親のミーティングからの聞き取りとして、良いコミュニケーションができるワーカーの例が示されている。すなわち、
- 敬意をもって接してくれる人
- 時間通りに現れる人
- 直接にはっきりと話してくれる人
- わかりにくい、難しい言葉を使わない人
- 話してくれる前によく考える人
- よく聞いてくれる人
- 何が起こっているのか、説明してくれる人
- やると言ったことをやる人
- 支援できないときでも隠さずに伝える人
- 辛抱強い人
他のセクション(key)についてもこのような調子で説明されており、そう言われれば確かにそうだ、というような指摘が並べられている。しかしそれが上手くできないから、子どもの側の支援者と大人側の支援者が噛み合わないわけで…
パート2
パート2ではもう少し踏み込んで、親の権利だけではなく、親に生じるかもしれない問題についても触れている。すなわち、精神的な健康が損なわれたり、アルコールや薬物依存症、あるいは家庭内暴力など。そしてこれらの親に対応し子どもの権利を守るための手順が書かれてある。
たとえば、親の評価と問題の発見に支援者としてはどう取り組めばよいのかとか、児童保護プログラムを進める場合の配慮事項とか、その際の関係者について記述が展開される。キーワーカー(key worker)やアドボケイト(advocate)について、加えて里親(foster parent)についても紹介されている。こういうことも easy-read版には盛り込んである。
そしてもし仮に児童保護プログラムが発動されて引き離されてしまった場合でも、必要に応じて(あるいは可能な範囲で)親は子どもとコミュニケートすることは保障されている点も明記されているのは興味深い。
こうやって眺めていくとeasy-read版では、前半は柔らかい調子で書くのだけれど、次第に親の問題についてもはっきりと触れていくという流れが感じられる。これも本書作成に当たって工夫した点なのだろう。
協力求む(翻訳作業)
以上、駆け足で見てきただけだが、もっと具体的に知りたい方はご自身で読まれるようお願いする。私たちは一般版の Good Practice Guidance について次年度中に(できれば前半で)翻訳・刊行するつもりであり*4、そこに easy-read版も併録するつもりでいる。作業を開始したところなので、関心のある方はご協力をお願いしたい。