アリーテ姫
週末の目標だった「アリーテ姫」を見る。商業的な華やかさはないが、主人公の境遇とエネルギーに引っ張られ、また構成のおもしろさにずっと見続けることとなった。原作(文章末尾紹介の本)はフェミニズム童話の成功作品という評価だが、片渕須直監督はこれを違った解釈にしたという情報だけ仕込んでいた。
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確かに見てみると、フェミニズム云々よりも、途中のセリフ“自分で自分の物語を語れ”みたいなテーマが一貫してあるような気がした。*1
同時にこのテーマと呼応して登場人物の誰もが何かに縛られて奪われており、そこから解放されようとあがいているように感じられた。それは主人公のアリーテはもちろん、彼女を拘束する魔法使い(ボックス)にしても、また彼女を援助する魔女や、水を運ぶ女性(アンプル)にしてもそうであり、それらの交差がとても興味深かった。(対抗して、父王などはすべてをあきらめている象徴のような役だったが)
ネタバレになるのであまり詳しく書けないが、魔法使いボックスの行使する魔法(の正体?)が後の方で明かされる。これによってアリーテは美しい女性に擬せられ身も心も閉じ込められてしまうのだが、何とも皮肉っぽいというか。
最後に生き生きとしたアリーテがずいぶん魅力的に映るのは、たぶん私だけじゃないだろう。
アリーテは絶望的に不利な状況下で、何とか現状を変え、自分の生き方を見つけようとする。それは若さ故の果てを知らない力強さというのかもしれない。
結果的にアリーテに魔法の指輪を与えることになる魔女(名前は特にない)とのやりとり。(セリフはだいたいこんなふうだったと思う)
「おまえはまだ人生に意味を見いだそうとしているのかね?」
「……そんなの、当たり前じゃない。」
怒ったように強く、あるいは憮然と、言い返す彼女の言葉がとても良い。一息置いて感情を爆発させる手前の声で、しかし声高にではなく放つ演技(CV桑島法子)。自信満々で言っているわけではないのだろう。空元気(からげんき)で言っているのでもない。自らに言い聞かせる返事でもあったかもしれない。
ここで彼女を支えている根本を否定されるわけにはいかないのだ。
このように難題を抱えながらも自分を活かし生きていく宮廷女性の物語というと、連想されるアニメーションは「雲のように風のように」(原作:後宮小説)や「彩雲国物語」だろうか。ただこの二作はそれなりにチャンス(と言えるかどうかはわからないが)を与えられての苦闘だったが、アリーテはけっこうひどい状況にあったのだな。
もうひとつ、この作品の重要なコンセプトとして、手仕事、職人というのがある。アリーテは箱入り娘で汚れのない嫁となるべく手厚い保護という隔離拘束を受けていたが、彼女にしてみればそれは自らのうちに何もない空虚さでしかなかった。
だから外界の人たちが手に職を持っていることをうらやましく感じていた。
手仕事とはそれが自立の手段でもあったが、同時に自らの手を経て何かを創り出すことの繋がりと豊かさのようなことを意味しているように思われる。ここで「からくりからくさ」ほか梨木香歩の小説群を思い出す。あそこでも、登場人物たちは静かに、そして豊かに、自らの世界を織り上げていた。
アリーテはまだこれからだけど、しかしエールを送ってやりたい気がする。
あとは少し脱線。
絵は「魔法少女隊アルス」に似ていると思ったら、同じSTUDIO4℃作品だった。アルスはかなり好きな作品なので、馴染むのも無理はないか。一般ウケするかどうかはわからないんだけど、魔法のある世界をよく表してくれるように思う。
最後に。アリーテ姫のCVは桑島法子。何だかこの人って好きなんだよね。電脳コイルのイサコ、クレイモアの主人公など、好きなアニメでよく出会い、印象的な仕事をしてくれている気が。前述の「アルス」でもシーラ役で出ている。最近の活躍もめざましい。
ついでにもう一人好きな人は雪野五月かも。いやもうなんだかこの人すごいなと。
そうだもうひとつ。
片渕監督の作品では、「マイマイ新子と千年の魔法」も評価が高い。DVDを買おうかどうか逡巡中。いや買いたくてうずうずしているというか。
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*1:“あんたはあんた自身の物語を作るんだね”