実例からみた身上監護の枠組みと運用(実践成年後見No.23)(その2)


(その1)の続き。

筆者として名前を挙げたメンバーは、いずれも成年後見制度改正のための議論に参加していた。そこで身上監護について、いわば本来的な事務であるところの法律行為(領域1)に加え、このような法律行為を完遂させるために必須の事務として付随して構成されるべき事実行為(領域2)があることを指摘した。
既に雑誌に発表したものなので、ここにも掲載しておこう。
 
私たちの提案は以下のようになっている。


(1)本人意思と自己決定の尊重、ベスト・インタレストの実現

(2)これを実現するため必要な本人の状況把握と環境整備

(3)身上監護の内容と範囲(表1参照)


(1)の部分。議論としてはある程度認知されつつあるが、しかし構成要素としては外しておけない。ここできちんと確認しておく必要がある。ただし、本人尊重やベスト・インタレストという表現がいったい何をどこまで指し示しているのかについては、まったく今後の実践と議論にかかっている。

それから(2)は現場レベルでの理解に幅があると考えられる部分ではないか。つまり頭ではわかっていても実際にやるかどうか、どのようにやるかの点で開きがあるということ。しかし(1)を全うさせるには(2)が必須という立場をとる。

そして(3)については、下記のような表1として整理した。本当はもっと大きい表なのだが、簡潔に示す。


        表1 身上監護の内容と範囲(私案)

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 領域1:身上監護業務としての法律行為
  ①病院等の受診、医療・入退院等に関する契約、費用支払い
  ②本人の住居(注1)の確保に関する契約、費用支払い
  ③福祉施設等(注2)の入退所・通所に関する契約、費用支払い
  ④公租公課・公共料金等に関連して必要な手続き、契約、費用支払い
  ⑤社会保障給付(諸手当・年金・生活保護等)に関連して必要な申請、手続き
  ⑥保健・福祉・介護サービスに関連して必要な申請、契約、費用支払い
  ⑦教育・リハビリテーション・就労・余暇活動・文化的活動等の社会参加に関する契約、費用支払い
  ⑧上記①〜⑦に関連する手続き上の異議申立、訴訟行為


 領域2:身上監護業務としての法律行為に付随する必要な事実行為
  ①定期的訪問による本人の心身状態、生活状況、社会参加に対する希望の把握ならびに意思確認(注3)
  ②本人の住居の確保のための情報収集ならびに本人の意思確認
  ③福祉施設等を決定するための情報収集ならびに本人の意思確認
  ④保健・福祉・介護サービス内容に対する監視・監督行為
  ⑤本人をとりまく支援関係者との状況確認・連絡・調整
  ⑥その他契約どおり履行されているか等追跡調査

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注1 本人が現に居住している住居、あるいは居住の意思のある住居
注2 保健・福祉・介護に関する法律に規定される入所施設・通所施設
注3 意思確認は代弁機能も含む

表は領域1、領域2として整理している。領域1の部分はこれまでの議論で或る程度認められているところであり、この雑誌特集でトップバッターを務めている上山泰氏なども自身の著書で示している。ただし⑦のように社会参加もその範囲として加えたのは、私たちの提案による。
そして領域2が今回の表の重要な部分となる。当たり前だが、なんでも事実行為が身上監護に含まれるとしているのではないことに注意して欲しい。上記(2)で示したように、本人の状況把握と環境整備にあたる部分がほぼ領域2に当たると言えるかもしれない。私たちは、このような本人の状況把握と環境整備ならびに調整については、領域1をきちんと行うために欠かすことができない部分だとしているということだ。
なお、今回の表整理にあたっては、判断しずらかった行為や、まだ判断できない行為(医的侵襲に対する同意ほか)については議論対象として含めていない。よって表1に入っていないからといって、身上監護ではないと私たちが判断しているというわけではない。(その辺、雑誌への寄稿では言えていなかったかも)


これが今回の原稿の柱になっているのだが、他にも少し言っている。それは(その3)に続く。