専門職後見人と身上監護/上山 泰

上山 泰著「専門職後見人と身上監護」(民事法研究会)が出版された。

専門職後見人と身上監護

専門職後見人と身上監護

目次などは出版社のページに記載されているので参照されたい。


著者は以前に近似した下記の著書を発表しているが、今回はこれに代わるものとして出されたとのこと。

成年後見と身上配慮 (日本社会福祉士会成年後見シリーズ (3))

成年後見と身上配慮 (日本社会福祉士会成年後見シリーズ (3))


流石にテキストとしての用途を意図しているため、関連事項が広く記述されている。また文章が比較的わかりやすい。流れとして、各セクションともに立法担当者の解説、近年の説など紹介に続いて、著者の考えを提示している。


身上監護の考え方は新しい成年後見制度となってから大切なテーマとなっているはずだが、必ずしも関係者に理解されているとも言い切れず(むしろ頭でわかっていても実務とは乖離していることもあったり)、またその具体的な事務範囲なども明確ではない。このことについて著者は自身の考えを披瀝している。
また専門職後見人についても論じているのは、前著に比べて重点化された部分と言えるのだろう。現在、いわゆる(というべきだろう)“市民後見人”との関連の中でも取りざたされることが多くなってきた話題であり、これについて方向を提示している。


身上監護については私たちのグループも以前に意見を提出しているのだが(下記記事参照)、著者は私たちの考え方も汲み取りつつ、業務を整理してくれていた。例えば、社会参加の促進に関わる契約等についても含めた職務構成にしている。嬉しい。どちらかというと著者も私たちも現時点では身上監護の事務を比較的広く捉える立場に立っていると言えるだろうから、親和性があるとは推測していたのだけれど。でも著者にも書いてもらってホッとしたというか。


また個人的に関心のある、本人意思尊重などの議論についても仮想事例など用いつつ説明している。ただ前著でも愚行権について触れていた部分は今回も同様に示されているのだが、その出自の問題や愚行権それ自体の議論は含めず、愚行権知的障害者等への適用を認めたところからの説明となっている。私自身はそのあたりについて引っかかっていたり、また他者から疑義提示されていたりしているところなので、できれば著者の明快な議論展開なども伺いたかったところだが、でもまあ、テキストなんだから止むを得ないか。個人的にはもうふたひねりくらいして落ち着かせる必要があるのではと考えている。


それからもうひとつ。民法858条の身上配慮義務とならんで本人意思尊重義務を論じている部分。

…しかし身上監護事務は、まさに利用者にとって、最もパーソナルな事項を対象とするものであり、対象となる事務の遂行「結果」だけではなく、その遂行「過程」まで含めて、利用者の幸福感や満足感に直結する性質を持っているといえます。このため、一般論としては、純粋な財産管理事務以上に、利用者の意思実現が強く要請される領域であるといえるでしょう。というのも、そもそも自己決定権は、自己実現を法制度的に担保するための仕組みであるといえますが、財産管理事務が、主として、この自己実現を支える経済的・物質的な基盤の構築や維持にかかわる領域であるのに対して、身上監護事務は、まさにこの自己実現の具体的な内容そのものとして現れる領域だと考えられるからです。(p.79)

もっとずっと引用すべきではないかと思われたけれど、そうすると引用の範囲を越えてしまいそうなのでこれくらいしにて。
ここで著者は「結果」だけでなく「過程」も大切にすべきとの認識を示しているようにも思われる。とても興味深い。ただしそうすべきとの認識と、実際にそれが可能かどうかは別である。そこで著者は次に身上配慮義務と本人意思尊重義務のバランスをとることについて論じている。つまり両者が合致することもあるけれど、相反することもあるということだ。


ところで私は先日、「後見制度は決定支援を担保しない」という記事をエントリーした。

ここで私が書いたのは、日本の成年後見制度が、本人意思尊重の過程(プロセス)までも担保するものではないということだった。そして、ひとまず英国の MCA2005 はそういう規定を作って担保しようとしているらしいことと比較しようとした*1。MCA2005 が本当にそのように使われるかどうかはまだわからないのだけれど、少なくとも法の規定としては過程も担保しようとしているかに見える。そしてこれと比べると、日本ではそうじゃないだろうと書いた。
著者(上山氏)が上記の節で解説したことは、おそらく私の関心とかなり近いところを書いてくれている。ある意味、別の観点から論じているということなのかも知れない。しかしこれは単に私の勝手な推測なので、今後機会があればきちんと著者にご教授いただきたいと思う。


とはいえ、まだちゃんと読んでいるわけではなく関心事項についてぱらっと拝見しただけなので、改めて読んで確認していく。その結果、この記事に誤りや不正確な点があったら修正する。

*1:いや、大して詳しく書いてません、すいません。