げんしけん/木尾士目(その1)


この「げんしけん」というのが現視研現代視覚文化研究会のことだというのは知っていた。だってうちの大学にもあるし。私の学生時代にそこに入っていた友だちも居たし。で、ずっと“へえ、世の中には同じようなサークル名があるのねえ”と思っていた。

でもその漫画の作者(木尾士目)がうちの大学の現視研OBだと知ったのは、その後しばらくしてだった。つまりまさにうちの大学が下敷きになっていたわけで。と同時に、あ、やっぱしあんまりそういうサークル名が世間に多いわけじゃないのか、と知ったわけだ。


その漫画についてはどうやら中身がおたく的な話だからとぼんやり聞いて、じゃああまり見なくて良いかなと思っていた*1。しかし何かの切っ掛けでパラパラめくってみて、結局読み通してしまった。面白い。

げんしけん(1) (アフタヌーンKC)

げんしけん(1) (アフタヌーンKC)

げんしけん(8) (アフタヌーンKC)

げんしけん(8) (アフタヌーンKC)


舞台の椎応大学は、中央大学がモデルだそうだ。編集者の母校らしい。なぜ筑波大学じゃないかというのは、作者の前作までを見ると分かる。「陽炎日記」「四年生」「五年生」いずれでも、のけぞるくらいに筑波大学のキャンパスの景色などが使われている。これと重なってしまうから、筑波大学を使わなかったのだろう。


ストーリーについては、各位がおっしゃるようにイタいと言えばイタいんだけど(それでそのイタさ加減がちょうど心地よかったりするんだけど)(でまた斑目だけじゃなく荻上が出てきたことでそのイタさがいっそうじんわり効いてきたりするんだけど。あー、来るなあ)、でもそのような言葉だけで性格付けしてしまうのは違う気がした。もっとイタい漫画は他にもいろいろあるし、イタさだけでいえば、「四年生」とか「五年生」とかのほうがそうだろう。だから「げんしけん」はもっと別の面白さで語られて良いのだろうというのが個人的な感想。とはいえ、ずいぶんと青春群像劇(とどこかの漫画レビューに書いてあった…旧くない?この言い方)ではあると思うが。
以前も誰かのこういう作品を読んだことがあったなあと思い出していた。少しどこかちくちくするけど、でも愛着がわく感じ。どれだったろうか。うーん、私の同時代っていうと、矢野健太郎の「ネコじゃないモン!」とか?(うわー、誰も知らなさそう)*2,*3


作者の他作品を見ていれば予想が付いたのだろうけど、私は「げんしけん」が初めてだったのでわかっていなかった。上述のように、「四年生」とか「五年生」とか、作者はもっと直裁なのを描いている。えてして大学卒業前後の男女というのはそういうところあるよなあとか思ったりもするが、木尾士目はそのままに描いていた。
で、こういうシリアスな?漫画があった後、「げんしけん」ではコミカルな要素も加え、少し距離を置いて話を進めるようになっていることがわかる。じっさい、「五年生」の最後(おまけ漫画)で、作者は“この作品が代表作にならないようにがんばります”と自虐ネタを描いている。作者は「げんしけん」をスタートさせた際に意図的にスタイルに変更を加え、そして成功したってことなのだろう。
私が当初誤解?していたように、本作はおたくややおいだけでどうとかいうよりも、キャラクターに次第に惹かれていく。最終巻まで読み終わって私のベストは一番イタそうな荻上千佳。


まあ、大野加奈子や春日部咲ももちろん好きなんだけどね。


(その2)に続く。

*1:おたくだから嫌っているという話ではなく、細かいこと突いて何か面白いのかしらという感じに近かった

*2:げんしけんの登場人物とはまた違った難しさがあったなあ>尚子(と修一)。懐かしい。

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