コーヒー豆の記憶

休日だから休日ネタを。かな。

中学校では陸上部にいた。高校もそうだったけど。


中学校の陸上部の先輩は怖いと思っていた。けんかっ早かったり、高校で抗争に絡んだ人もいたらしいから、まあイメージはあながち間違いではなかった。ただしそうではない先輩ももちろんいた。
Mさんは怖い先輩と一緒にいたから、彼も怖いのだとずっと思っていた。でもそうではないことが少しずつわかってきたある日。


練習の合間、休憩時だったと思う。階段に腰掛けていた。顧問教員は辺りにいなかった。Mさんが近くにいた。あまり話したことはなかった。

Mさんが話しかけてきて、なんだか知っているかと差し出した。コーヒー豆だった。当時の私は良くわかなかったので、これはコーヒー豆だと告げられ、初めて実物を見たという驚きをもって眺めた。

ときどきこれを囓るんだよという。そんな嗜み方があったのかと、私ももらった豆を口に入れる。囓ると、苦さとともに酸っぱさもあるような、不思議な感じがした。それはそうだろう、そのときはまだコーヒーを飲むということ自体ほとんど経験がなかったのだから。飲んだとしてもインスタントで。そして、美味しいという理解も印象もまるでなかった頃の話。M先輩は私の顔を見て笑っていた。
おそらく私はヘンな顔をしていたのだろう。その笑い顔が今でも私の記憶に残っている。


その後も、とても仲良くなったということもなかったが、私は彼になんとなく憧れのようなものは抱いていたと思う。適当に面白く、どこかシャイで、練習は真面目だったり不真面目だったりしていた。二度とコーヒー豆をもらうこともなかったし、一緒の階段に腰掛けることもなかった。

なぜ私になどくれたんだろう。


豆をいつもの店に買いに行った。酸味の少し強い豆を買った。
それを挽いて飲むうちに、ふとM先輩のことを思い出した。あのときもらった豆も、そういえばこんな酸味だったような気がした。


コーヒーのつまみにコーヒー豆?(犬は星見た?@goo、2005-01-23)