決定支援などに関する研究会(京都大学、2/19-20)

長らくのご無沙汰です。ぜんぜん時間ない。今こうしているときも、原稿3本〜、調査*件、ずっとやってる本の作業、学内事務何件か、など、追い込まれてまずい状態のもあるし。
でもちゃんとかたちにしている人もいる訳で、私も何とかしたい。
そういうことで、あまりブログに書き込むという気になれなかった。加えて、ここに書くことの意味をあまり感じなくなっている。

今は研究会が終わって新幹線の中なので、こういう文章も書けるけど。


それでも今回の研究会についてはとても面白かったので少し出しておく。


京都大のグループが行う科研・学術創成研究費として「ポスト構造改革における市場と社会の新たな秩序形成−自由と共同性の法システム−」がある。メンバーである先生のプロジェクトとして昨年と今年、お招きいただいている。「自立支援と権利擁護研究会」のような枠にしているようだが、かなり意思決定とその支援に関わることや、成年後見制度の課題などが取りざたされる。
(昨年は「介助関係の形成と意思決定の起始」というテーマで話した。法学の皆さんの中で話をしたため難しいと言われたが、でも興味を持ってもらえたのでいずれ改めて提示し直したい。)


今年のプログラムを以下に示す。

前回の議論のまとめ(服部高宏、京都大学法科大学院教授)


自己決定/後見支援−これまでの研究と活動の成果−
 佐藤彰一(法制大学法科大学院教授)


リスク社会における私法の変容
 浅野有紀(近畿大学法科大学院教授)


虐待対応を通してみる権利擁護と自己決定
 池田惠利子(いけだ後見支援ネット)


地域権利擁護機関としての後見支援団体と地方公共団体基礎自治体)の成年後見制度における役割について
 上山 泰(筑波大学法科大学院教授)


ニーズの行方 〜W.イグナティエフ「ニーズ・オブ・ストレンジャーズ」を手がかりに〜
 大塚 晃(上智大学総合人間科学部社会福祉学科教授)


イギリスの成年後見制度−−意思決定を支援する法制度、社会
 菅富美枝(法政大学経済学部准教授)


日本の成年後見制度は国連・障害者権利条約第12条に違反するか?
 名川 勝(筑波大学人間総合科学研究科講師)


意思決定と成年後見制度に関わるいろんな角度からの報告だった。上山先生までは19日、大塚先生以下は20日に報告を行った。2日間、7時間以上を費やしたのだけれど、発表時間が短くて議論も不十分なため残念だった人もいた。他のメンバーも、濃い時間だったねえと言い合っていた。もっとじっくり議論したかった。
中身はここからではちょっとわからないと思うが、基礎的な研究から議論が最終的には実践へと至るので、かえって話が突っ込んでいて刺激的になる。
特に後見制度の課題についてはラディカルにやれていてわくわくした。


例えばということで少し紹介。(中身にあまり触れないので申し訳ない。でも中身に触れるとちょっとでは済まない。)


浅野先生の話は、リスク時に自己決定ばかり求めるシステムの問題点を示しながら、ではどうしたら良いのか?と問うてくる。自己決定では終わらず共同決定あるいは支援による決定事態の構築であるところまでは皆分かると思うのだが、それがまた違う角度からもうひとつ突っ込んでいるのが面白かった。できれば改めて議論したい。


上山先生の研究は先日も学会内で伺ったところ。そこからの提案として興味深い点がいくつかある。話が相変わらずうまい。


大塚先生は厚労省でずっと行政の仕事をしてきた人だが、根っこは哲学や現象学にある。ニーズに関する疑問をきちんと立ち止まって考えていく姿勢が伺え、さらなる成果をお待ちしたい。


菅先生は英国のMCAの、とりわけベストインタレストに絞っての議論。施行されて実際の課題も踏まえつつ問題の整理が深まっていることを歓迎。
“MCAを英国後見法と言った時点で既に間違っている”との言明を聞けたのも良かった。後見を意思決定権限を他者に委譲することとするなら、MCAはそのようにする場合をできるだけ少なくなるように努めているシステムだから。その主張を自分でも活かしていく予定。


池田先生のお話と質疑の発言は、これまでと同様、権利擁護の立脚点がぶれずにいるので、私がふらふらしそうなところを引き戻してくれる。
佐藤先生は基礎的議論を現場に結びつけて突っ込んでいくのが面白い。


私の話は知っている人は知っているネタなので、あまり書かない。いずれ5月30日の日本成年後見法学会(法政大学)では、複数の分科会でこのネタに触れられると思う。そのうちのひとつが私。
そのため、現時点での考えをおおざっぱに出してご意見を伺う機会としたのだが、さすがに法学素人の私が第一線のみなさんの中で話をするってのは無謀だなあと苦笑いだった。
ついでに言うと、このネタについて12条との関係で問題であることを言いたいだけならあまりたいへんではない。問題はその先、如何に説得力のある議論を詰めていけるかが求められている。


もうひとり報告担当者ではないが、同志社大の竹中勲先生もおいでくださった。選挙権問題について憲法論の立場から整理した論考を出している。参考になる論文。竹中先生は夜の懇親会にも加わり、音楽の話などで楽しませていただいた。
その中で感心したのは、選挙権問題や欠格条項問題についてとても実際的な取り組みを志向していたこと。私も含めて問題指摘が理念や人権論のようになってしまいがちのところを指摘、それじゃあ勝てない、という。政治家や行政に納得させるためのロジックと証拠立てをどうするか、先生と一緒にいると、厳しく突きつけられる。どうやら私は憲法論の人をイメージだけで誤解していたようだ。


いずれにしてもこの人たちの主張は、いずれどこかに出していく必要がある。私たちだけが聞いているのでは何も意味がない(もちろん私は深まったけど)。そうすれば日本の制度も少しはましな方向に動く。


今、多くの人が後見制度を過剰に使っているし適用しすぎていることで、過誤がどれだけ起きているのかということを認識する必要がある。例えば取消権行使の多くは民法や消費者関係法の適用で済む話なのに、後見制度という大きな網をかけてその人を「守って」いる。(英国は実際、消費者法で対処しているそうだ)


その他、どこかで書ければと思うが、そんな時間あるかな。