当たった

というか内定段階だが、研究助成がいただけそう。成年後見制度の審理過程におけるソーシャル・レポート適用に関する基礎的検討を行ってみようというお題。
申請時はとても忙しかったから、えいやっと書いた。いろいろ考えてまあ今回は無理だろうと思っていたので、驚いてもいる。萌芽の枠で、基本的なことの確認と、本格的な検討の準備という作業。もちろん私に出来ることは限られているので、その範囲での積み上げをする。


ただ、今年これは無いと踏んであれこれ仕事が入っているところであり(たとえば他の人とやっている研究事業のまとめとか、本を出すとか、翻訳出すとか、データ追加して論文書くとか)、なかなか(いや、かなり)厳しい1年が約束されたわけだ。あははは。


もうひとつ別のテーマで申請している民間助成があり、それは是非とも当たってほしいと仏壇と神棚に念じていた(いる)。また、連名で名を連ねているものは、他の先生が各方面に祈祷している。
当たったら当たったで、自分の首を絞めるのだが。


申請書の冒頭の作文はこんな感じ。雰囲気は分かるのでは。少々突っ張って書いているので、事情ご存じの諸兄は幾分お目こぼし願いたい。

ア)背景とこれまでの研究成果:
成年後見制度は、判断に支援の必要な人(認知症等の高齢者、知的障害者精神障害者などの一部)に対して、本人の同意・取消あるいは代理を行う者(成年後見人・保佐人・補助人を指す;以下成年後見人等とする)を置くことによって、本人(成年被後見人被保佐人・被補助人を指す;以下本人もしくは成年被後見人等とする)を法的に支援する制度である。民法の一部として構成される。制度の始まった平成12年以降は次第に申立件数も増えてきており、今後さらに需要が増大するものと予測されている。現時点ではそのほとんどが後見類型であり、本人にとってより制限の緩い保佐・補助類型の審判は少ない。既に当助成申請者(研究代表者)はこの点について、実際の本人の意思能力よりも過当に審判類型が厳しくなっている可能性を指摘しているところである(名川,2006b;2006c)。また本制度が法的領域と福祉領域に重なり合う性質を有しており、福祉的な関与とノウハウによる実践が重要であることを、特に身上監護領域について論じた(名川・菅井・笠原・佐々,2007)。

現行制度における審判過程では、審判申立を受けて家庭裁判所調査官が必要な調査を行うとともに、必要に応じて医師の鑑定書を得た上で家庭裁判所が審理する。しかしながら近年の議論では、成年被後見人等となりうる本人の能力を医師の鑑定から判断するのは必ずしも十分ではないとの指摘があり、個々の状況に応じた意思能力判断を行う必要があるとの考えが出てきている(能力の domain specificな特性論、ならびに能力判断におけるfunctional approach)(名川,2007a)。しかしその具体的な方略については未だ明らかになっていない。欧米を中心とする海外においては、医師鑑定書のみならず、本人の日常生活を知る福祉領域の支援者ならびに心理士の提出資料が参照されることがあり、これを一般にソーシャル・レポートと呼ぶ。本邦においても、これを導入し、本人の生活にふさわしい支援を前提とした、より適切な審理過程を構成することが極めて重要な課題となっている。


イ)目的:
そこで本研究では、この課題を検討する萌芽的な調査を行い、以てさらに具体的なソーシャル・レポートの方法論を提出するための資料ならびに論拠を明らかにすることを目的とする。すなわち、ソーシャル・レポートの理念・意義と構成について内外文献に基づき整理し、概念をまとめる。またソーシャル・レポートを構成すべき要件についても明らかにし、成年後見制度における適用の基本的な考え方を導くまでを行う(より具体的な構成とレポート作成のあり方については次の研究に委ねる)。


ウ)研究動向:
本件に関連する国内研究としては、審判にかかる能力判定の議論が法学と精神医学・心理学の両側面から検討されてきており、ある程度の蓄積があるため、今回のようなアイディアに至っている。しかし本邦ではソーシャル・レポートの具体案にまでは未だ達成していない。海外研究としては、米国における後見システムに類似した考え方があり、これを参考に出来る。さらに英国では新成年後見法としての Mental Capacity Act 2005(以下MCA2005)が今年10月1日を以て施行されるとともに、同法施行細則である Code of Practice(以下COP)が公表されている。COPの趣旨として、本人の意思をより個別的に判断することとする考え方が基底にあり、本人の意思能力判断に関するとらえ方や具体的な取り扱いは参考となる。現在、当助成申請者(研究代表者)は、英国法研究者、民法研究者とともにCOPの日本への適用について講読・検討している。


既に先達がある程度整理してくれたものもあるので(私だけで出来るはずがない)、そこに現状の把握を加え、いろいろ考えてみる予定。