法定後見実務改善と制度改正のための提言(その2)

(その1)に引き続き、提言の各項目について列挙する。


提言本文は、以下に示す提言と、その理由から構成されている。理由部分は長いので、各自でpdfファイルをダウンロードして読んでいただきたい。なお、文中の(1)などは、本来は丸数字で記載されているが、このブログだと表示に失敗するため、括弧付きの数字に変えている。

2-1
全国の市町村が、成年後見等に関する市町村長申立を積極的に実施する体制を整備すべきである。


2-2
成年後見制度利用支援事業を活用する等、低所得者に対する費用補助を積極的に行うべきである。


2-3
成年後見の申立費用は、原則として本人負担とし、申立がもっぱら申立人の利益のための特別の場合に申立人負担とすべきである。
この費用負担の決定は、開始審判と同時に職権で決定をするものとする。


2-4
成年後見等開始審判申立の取下には、家庭裁判所の許可を要することとするべきである。


2-5
(1)審判書及び成年後見登記における成年後見人等の住所を事務所あるいは自宅のいずれの住所でも良いとすること。
弁護士、司法書士等、公的な所属団体に登録された事務所を有する者については、これを成年後見人等の住所とすることを認め、審判書および登記においても、これを住所として記載する。
(2)通称の使用
婚姻前の氏を職務上の氏名として登録することが認められ、これに基づいて業務を行う者については、この通称での登記を認める。
(3)職名の明記
弁護士、司法書士社会福祉士等、専門性を有するゆえに選任された場合には、職務名を審判書に表示し、登記記録に記録すること。
(4)あわせて、家庭裁判所が事務所を住所とする印鑑証明書の発行を行うこと。


2-6
家庭裁判所が、必要に応じて、成年被後見人の信書等の送達場所を成年後見人の住所とし、また、成年後見人に信書等を開封する権限を付与することができるとすべきである。


2-7
金融機関は、成年後見人が就任した場合の預貯金取引に関し、以下のように改善すべきである。
(1)後見等開始の届出と取引店について
後見等開始につき、口座開設支店に届出れば、当該金融機関の他の支店でも、取引可能とする。
(2)口座名義について
後見人等が就任しても被後見人等の口座名義が変わることはなく、後見人等は、代理人として預貯金取引を行うにすぎないことを周知徹底する。
(3)後見人等が利用できるキャッシュカードを発行する。
(4)後見等開始の届出において、過去の取引について異議がないことを印刷した届出書を使用することは中止すること。


2-8
判断能力を喪失した者に関する第三者の医療同意に関する法について、以下の内容で整備すること。
(1)一定の範囲の家族とともに成年後見人に対し、通常の医療行為における同意権を与え、その範囲を超える重大な医療行為については同意すべきか否かについて審議決定をする機関を設置するものとする。
(2)この機関は、通常の医療行為についても成年後見人が判断に迷う場合には審議をすることができることとする。
(3)この審議機関の構成は、医師その他の医療従事者、法律家、医療倫理の専門家などからなるものとし、この審議機関の決定に対して不服がある場合には、裁判所に不服を申立てられるものとする。


2-9
後見人及び保佐人について、本人の保護のため特に必要があると認める場合には、家庭裁判所は利害関係人の申立により後順位の保護者と順位を変更することができるとすべきである。


2-10
後見人等の職務遂行の指針を明示すべきである。本人の意思の尊重と身上に配慮する義務の基本的理念として、本人の「最善の利益(ベスト・インタレスト)」を掲げるとともに、これを実現するために以下の項目を指針として示す。
(1)本人の状況に応じて身上を把握(見守り)し、必要に応じて本人を取り巻く支援関係者との連携に努めること。
(2)本人が自由に意思を表明できる環境を整備するよう務めること。
(3)重要な法律行為を行うにあたっては、本人を取り巻く支援関係者からも意見を聞くなどして、総合的に判断すること。
(4)本人の財産の活用は抑制的にならず、本人の生活の向上を目指して、本人の意思を尊重するとともにその身上に応じて行うこと。


2-11
被後見人死亡後も、成年後見人が保管する財産を相続人等に引き継ぐまでは、財産に関して相続財産管理人と同一の権限を認めるべきである。


2-12
家庭裁判所の後見専門担当の人的充実を図り、また成年後見等の申立に対する相談や選任後の成年後見人等に対する助言を行うことができる態勢を整備すべきである。


2-13
成年後見人の養成・監督・支援に関する公的機関の創設


2-14
国家公務員法38条1号、地方公務員法16条1号を削除し、国家公務員法76条、地方公務員法28条4項から成年被後見人被保佐人を除外すべきである。

後見開始決定にともなう選挙権剥奪には、合理的な理由はなく、憲法で保障された普通選挙の理念に反し、著しく基本的人権を損なうものである。したがって、公職選挙法11条1項から1号(成年被後見人)を削除する。