後見審判過程におけるソーシャル・レポートについて(080906版)

先日の研究会で出したレジュメをほぼそのまま出す。ただしブログに合わせて順番を変え、修正を加えた。またコメントも少し付け足した。
あれこれ考えていることを新規にブログに起こす時間もないので、他で作った文章を横流しだ。


以下、かなり乱暴な叩き台として提出しているので、そのつもりで真に受けすぎないように読んでいただきたい。
正直、現在はこのようなアイディアは日本の家裁では困難だろうと思う。私も制度上の実現よりもむしろ運用上同等の効果が出せるようなことができればよいのではとの考え(情けないなー)。


ただこのテーマを考えていると、どうにも現在の成年後見制度が当初の改正理念からだんだんと形骸化しているとの懸念も強くなってくる。そして、後見に関わる主流の人々は、別にそれで良いではないかと考えているのではないかと思われる。
判断に支援が必要な人について、どう考えるか、の問題だと思うのだが。


ある種の相続問題など紛争事態などを切り分けて行くには現在でも良いしそれで十分ではないかと考える場合には、下記の話は無駄なだけかもしれない。
また緊急性の高い権利侵害事態についても、観点は別と思われるかもしれない。*1
私の気にしているのは、後見というコントロール性の高い権限が他者に委譲されたにもかかわらず、その後の生活がないがしろにされる(あるいはきちんと考える人が居ない、体制が保障されない)場合があることを懸念するものだ。
しかもその根拠となる能力評価は財産管理能力に重点の置かれた基準が採用されているが、それが過重に本人(被後見人等)を制限するシステムであることも個人的には心配している(その辺は他で書いたから飛ばす)。


そんなものは福祉でやることだから民法で話すんじゃないとの指摘もありそうだ。だが海外では身上監護や生活についても顧慮できるよう切り分けているし、一方が他方で覆い隠されてないがしろにされる危険性は若干低いのではと思われることもある(無いと言ってません、比較の問題)。
またこの法律が福祉法に近いところに位置している(検討事項も、また波及効果も福祉に関わってくる)にもかかわらず福祉的措置に言及できず担保も為されない構造だから、ややこしいのだと思う。

うーん、上手く言えないなー(いらいら)。
今回はここまで。

■提案形式による素案

1.審判資料として、医師による鑑定書/診断書に加え、被後見人等候補者である本人の生活状況、活動状況、実生活における判断力行使状況、周囲とのコミュニケーション状況などを記載した報告書(いわゆるソーシャル・レポート)を必ず参照すべきである。


2.ソーシャル・レポートは、申立人の提出によるもののほか、家庭裁判所の調査資料ならびに家庭裁判所が関係各機関に提出を依頼し送付された文書によって構成される。
(中身/要素は別途検討)


3.家庭裁判所は必要に応じて審判後の生活支援について意見を付記することができる。/すべきである。
(後見人に対する意見付記など可能? あるいは非公式文書?)
(このままのかたちでは困難と思うので、より適切な形式の記載をご教授ください)

■ソーシャル・レポートとは
 現行制度における審判過程では、審判申立を受けて家庭裁判所調査官が必要な調査を行うとともに、必要に応じて医師の鑑定書を得た上で家庭裁判所が審理する。しかしながら近年の議論では、成年被後見人等となりうる本人の能力を医師の鑑定から判断するのは必ずしも十分ではないとの指摘があり(水野ほか)、個々の状況に応じた意思能力判断を行う必要があるとの考えが出てきている(能力の domain specific な特性論、ならびに能力判断における functional approach)。名川らも通常の知的能力判断(療育手帳等級判断)だけでは必ずしも本人の生活場面における能力の多様性を反映できないことを示している。
 欧米を中心とする海外においては、医師鑑定書のみならず、本人の日常生活を知る福祉領域の支援者ならびに心理士の提出資料が参照されることとなっており、これを一般にソーシャル・レポート(Social Report)と呼ぶ。本邦においても、これを導入し、本人の生活にふさわしい支援を前提とした、より適切な審理過程を構成することが重要な課題となっている。



■海外での状況(五十嵐、岡本、白石など)

 評価担当者や評価内容については記載があるが、評価の適用などについては詳しくない。


○ドイツ/世話法
 医師の鑑定書とともに、市・郡の世話官庁に所属するソーシャルワーカーにより、ソーシャル・レポートの提出がなされる。生活関係の鑑定人には、ソーシャルワーカー、弁護士、療法士などが含まれる。
 ソーシャル・レポートの内容には能力判断の資料としての側面だけではなく、支援ニーズにかかわる(そのようにも使える)調査も含まれる。
→追加資料(岡本)参照


○カナダ/オンタリオ州代行決定法
 金銭管理能力とパーソナルケア能力があり、後者は6領域(健康、栄養摂取、身なり、衛生、住環境、安全)に分類される。評価は法的資格を持つ評価者(assessor)がガイドラインに基づき行う。評価者は医師、心理士、看護師、ソーシャルワーカー作業療法士の専門資格を持ち、法務長官の定める研修課程を修了するとともに100万ドルの専門的債務保険に加入する。


○カナダ/ブリティッシュ・コロンビア州患者財産法ほか
 機能評価法の考えに基づく他職種チーム方式。法的拘束力はなく、best practice model との位置づけ。


○英国/Mental Capacity Act 2005
 医師のほかに臨床心理士も鑑定者に想定される。また場合によっては Speech Therapist や Occupational Therapist もあり得る。



■現在の日本では

○法的には身上配慮が結果として不適切ではないことが求められているものの、手続きとしての本人意思尊重ならびにソーシャル・レポートの活用が求められているわけではない。

○場合によって、支援関係者等が作成した文書が申立人を通して提出されることがある。どの程度の頻度で行われているかは不明だが、手続き上の必須要件ではなくまた申立人等にそのような知識が備わっていないため、提出者割合は低いものと思われる。

○鑑定医師に任意の資料を提出し、鑑定に反映させる場合がある。

○更生相談所、児童相談所などからの知的能力、心理特性、行動等に関する所見が提出される場合がある(神奈川県など?)。

○現状について明らかにした文献等は、無い?(意思能力に関する議論はある)

○裁判所側で意見を述べた資料はあるか?

○何らかの様式を持っているところがあるかどうか不明。

潜在的なニーズや考え方(利用者側)についても不明。



■ソーシャル・レポートに含むべき要素

○実施・運用にかかわる要素
 ・資料提出を行う者
 ・評価にかかわる者(評価担当者)
 ・評価目的と評価事項
 ・評価の適用範囲


○レポートに含まれるべき内容
 ・能力判断に際し参照しうる心理学的検査資料(医師鑑定を除く)。
 ・行動特性に関するレポート
 ・行動観察記録
 ・日常における行動ならびに判断に関するレポート
 ・本人の日常を知る者による、日常生活に関するレポート
 ・その他必要に応じて関係者への面接



■ソーシャル・レポートの活用・適
 理屈としては、下記の3通りが考えられるのではないか。ただし第3例は稀少と思われる。
1)狭義の意思決定能力(金銭管理、契約締結など)を判定する参照資料として用いられる場合
2)意思決定能力あるいは審判すべき対象能力をより広義に捉えて(生活諸事象)の判断総合的に審判する資料として用いられる場合
3)審判後の生活支援に波及させる目的で用いられる場合



■評価プロセスを変えるべきか
 評価に関して医師鑑定書だけではなくソーシャル・レポートを用いるとした場合、現行制度のように家裁の判断資料として用いるか、それとも評価プロセスを別途設けるかという議論もあり得る。(現状では困難そうだが)



■審判内容は能力判断についてのみ示すのか
■また福祉的支援に関する言及と指導のあり方は

 審判後の被後見人等に対する身上監護にかかわる事項を含めた生活上・福祉上の支援について何らかの言及をすることは、現代の成年後見制度の理念・趣旨に適うものであり、望ましいと言える。しかし現在の審判内容は民法の及ぶ範囲に従って能力判断を示すものであって、支援内容に関する事項まで含められるかは疑わしい。もし含めるとして、これはかなり拡大適用にならないのだろうか(乞う御示唆)。

 ・あるいは代理権等の後見事務明記のかたちで付記するか?
 ・その場合、どのように記載することとなるか?
 ・何らかの包括的な記載をした上で、具体的には後見人ならびに支援者の手に委ねることとなるか?
 ・支援計画書の提出などの方法をとるべきか?
 ・実施の担保、チェックのあり方は? 現行の報告書に加えて報告されることとなるか? そもそもそこまで行うべきではない?



■要整理・検討
○能力判断に関する考え方とソーシャル・レポートの位置づけに関する整理
○ソーシャル・レポートの基本的概念、目的、構成要素、適用と効果の発生
○申立〜審判経緯においてソーシャル・レポートがどのように用いられているかに関する調査
○ソーシャル・レポートに関する考え方の調査


*1:このあたりは最近議論をしていて気になったところだ。どうも一緒に考えると混乱しやすくなるように思う。この点はできれば別枠で書いてみたい。