知的障害者に対するヘイト・クライム(hate crime)

Valuing People Now について紹介してきた4回目。

(その1)では経緯と背景を、(その2)では目次と構成を書いた。
そして各論として、(その3)では知的障害のある親の支援について Valuing People Now ではどのように書かれているかをみた。

本記事では、知的障害者に対するヘイト・クライム(hate crime)を確認する。

 
ヘイト・クライムは、日本では憎悪犯罪と呼ばれるようだ。

一般的にどのような状況であるかについては、下記など参照。他にも検索するといろいろ記事が出てくる。


ヘイトクライム Wikipedia
憎悪犯罪が増加、7722件に=動機の過半数は人種偏見−米FBI(navi-area26-10の国際ニュース斜め読み, 2007-11-20)


これを押さえたうえで Valuing People Now に戻る。以下はその抜粋である(自分の必要に応じた適当な要約なので、各自ご確認ください)。

英国では、障害者に対して、障害があることを理由として悪口を言ったり暴力を振るう(希に殺人も)ことが見られるという。これを障害者に対するヘイト・クライムと呼ぶ。多くが若者であり、そのため知的障害のある人にとっては、町中での安全を感じられないとする声もあるという。
政府は近年これを認識し、内務省が対応を進める。


Valuing People 2001 ではこの問題は取り上げられていない。しかし2007年の Valuing People Now に至って、初めて課題とされた。


何をすべきか。


ひとつめ。犯罪の記録。警察はまだ理解が十分ではなく、知的障害のある人が犯罪を訴え報告するのは容易ではない。使いやすい報告様式と報告を支援してくれる人が必要では。


ふたつめ。知的障害者に対する犯罪を明確にする(make visible)。まだ統計的に知的障害のある人が被害に遭っていると示されていないから、これをカウントできるようにする。


みっつめ。警察・司法領域の関係者に知的障害のことをもっと良く理解してもらう。今はまだ理解が十分ではなく、犯罪被害を話しても真面目に受け取ってもらえない。本人を講師とする研修など組まれて良いのではないか。


よっつめ。きちんと犯罪として対処してもらう。今までだと保護プログラムの対象として取り扱われるだけで(犯罪にあった人が保護される)、犯罪として処理されないことがあった。他の人なら犯人は犯罪者としての適正な処分手続きに乗るはず。同じようにして欲しい。


内務省としては、保健省と協力して知的障害者に対するヘイト・クライムへの取り組みを進める。ひとつには、対応のためのガイドラインの開発。それから、警察・司法などに対する知的障害の理解促進。そのためのボランタリー組織への資金援助。プロジェクト名は“Learning Toghether”。ボランタリー組織は2つあり、Inclusion NorthCoast2Coast である。


もうひとつはPIPパック(People in Partnership)の頒布である。


このように、英国政府としてもひとつの課題として取り組んでいることが記載されていた。
日本でも目立ったかたちではないにせよ、今後留意していくべき話になるかもしれない。また虐待や人権侵害であれば、昔から存在している。上記の文章を読んでいて興味深かったのは、警察や司法に対する知的障害者の理解不十分を指摘し、理解を高める取り組みを必要と指摘していること。これについては日本でもk−proあるいはセイフティネットづくりなどの活動として展開されているので参照されたい。ただ英国は行政的な推進が想定されるのに対し、日本は民間の財政的にもバックアップのない、草の根運動である。むぅ。

PA-Kpro.com


なお、このPIPパックは情報が幾らかまとまっているので、別エントリーとしたい


本件については、矢部さんの記事でも(特に後半に)紹介されているのでご覧いただきたい。

真剣に受け止めてもらえない知的障害者へのヘイト・クライム(矢部久美子のイギリス福祉情報 No.74)


この記事にあるように、タスクフォースの取り組みにおいて知的障害者へのヘイト・クライムが真剣に受け止めてもらえないとの指摘がなされ、これを政府が取り上げた結果が上記の Valuing People Now に表明されたという流れかと思われる。

タスクフォースのサイトは以下にある。
The Learning Disability Task Force - the Office of the National Director for Learning Disabilities (for England)


それから、公訴局(the Crown Prosecution Service)*1が作成したヘイト・クライムに対するポリシーならびにガイダンスなどについては、公訴局のサイトから入手可能。easy-read版もある。2007年2月27日付で発表?されている。

Disability Hate Crime Policy published (CPS News, 27 February 2007)
Disability hate crime (CPS)

 

*1:検察局としている訳もある。どちらが適切なのか私にはよく分からないので、ひとまず矢部さんの標記に従う。