ヘイト・クライムに対処するためのPIPパック

昨日のヘイト・クライムに関する記事(→http://d.hatena.ne.jp/mnagawa/20080112/1200137172)で、PIPパックが取り上げられていた。本日はこれについて中身を若干確認する。


思ったよりも情報が多いようなので、ほんのさわりだけ紹介になる。もう少し時間をかけて吟味すると良いかもしれないが、ひとまずブログ1回分だけ示す*1

このテーマを一緒にやってみたいという方は、どうぞ名川までご連絡を。
 
PIPとは、Person In Partnership の略語。いろんな人との関わりの中に私たちはいるよ、という意味合いのように思える。中を読んでいくとそのように感じる。

PIPパックのページは以下にある。またこれについて、ハートフォードシャー警察管区のページで取り上げられている。


PIP Pack in action (pippack.org)
PIP - People in Partnershipハートフォードシャー警察管区)


pippack.org にはpdfファイルによるパックの全ページ提供があるので、関心のある人は入手されたい(→http://pippack.org/pippack.asp)。easy-read な造りになっている。またこれを使った講習会あるいはワークショップの様子をビデオで見ることもできる。警察が関わって取り組んでいることもわかる。報告のためのわかりやすい記入様式や、携行できるカード(セーフ・カード safe card と呼ばれている)も用意されている。


もともとこのようなパックを作りたいとの話し合いにハートフォードシャー警察管区やソーシャルワーカーなど関係者が協力し、作成されたようだ。初版が1998年、改訂が2001/3年に行われている。
この管区以外にこのような取り組みが広がっているのかどうかについてはまだよく分からない。しかし政府の文書(Valuing People Now)に取り上げられているのだから、それなりの注目度があり、ヘイト・クライムに対処する有用な実践と理解されているのだろう。

他に、ピープル・ファースト、メンキャップ*2、いじめに対するタスクフォース、等の関係者によってPIPの運営が組織されているらしい。


パックは150ページ程度の本文(イラストと文章)に加え、被害にあった際の報告を書くための様式、セーフ・カード、CDが入っており、バインダーに綴じられている。イラストの提供は CHANGE となっている。
知的障害のある人本人にも読んでもらう場合の冊子というと、日本では20ページくらいがせいぜいだろうか。必要なことが書いてあるとはいえ、こんなにたくさん書いてあったらたいへんだろうと懸念するのは、私が慣れていないからか?*3


構成は以下のようになっている。

●PIPについて(About PIP)
●はじめに(Introduction)
●あなたの権利(Your Rights)
●法律について(The Law)
●安全に生活するために(Keeping Safe)
●警察の人に伝える(Talking to the Police
●その他の助けてくれる人たち(Support Services)
●苦情の伝え方(Making a Complaint)
●ワークショップのやり方(Workshop Tips)
●用語集(Word Bank)
●その他の情報・資料(Find Out More)
●いじめ・いやがらせの報告様式(Bullying and Harassment Reporting Form)
●PIP紹介チラシ(PIP Leaflet)


●「あなたの権利(Your Rights)」では、最初に Valuing People について紹介され、その後にあなたの権利としてこんなのがあるよと示されている。

  “安全に暮らし、傷つけられない権利”
  “法律を利用する権利”
  “言いたいことを言う権利”
  “街で他の人と一緒に暮らす権利”
  “平等に取り扱われる権利”
  “良いサービスを受ける権利”
  “盗まれない権利”
  “暮らしについて選ぶ権利”
  “わかりやすい情報を得る権利”
  “必要に応じて支援を受ける権利”
  “よくないときに苦情を言う権利”
  “よくないときに誰かにそれを伝えたり、誰か法律を破っていたら警察に言う権利”
など。


●「法律について(The Law)」では、1995年差別禁止法を始め、関連する法律の紹介と、その主な条項が説明されている。


●「安全に生活するために(Keeping Safe)」では、出かけるときにどんなことに気をつけたらよいか、家の中に知らない人を入れてはいけないとか、あるいはバスの中で恐い目に遭いそうだったら運転手のそばに行きましょう、さらには通りで酷いことを言われたときの応じ方など、具体的な対応スキルの紹介がある。
また緊急連絡先(999番)の使い方、電話がつながったらどう話せばよいかなどが紹介されている。


●苦情の伝え方(Making a Complaint)では、恐い目に遭ったり、いじめられたときの苦情の言い方が説明されている。苦情を言うのはあなたの権利ですということから始まって、誰に言えばよいか、どうやって言えばよいか、言ったらどうなるか、などが書かれている。


●「ワークショップのやり方(Workshop Tips)」の章では、グループでPIPを学ぶためのワークショップを開くときのガイドが示されている。招待状の出し方や運営に必要な準備と進行などが書いてある。


●「いじめ・いやがらせの報告様式(Bullying and Harassment Reporting Form)」では、日付や名前の記入から始まり、どんなことをされたのか、何人でか、どんな人だったのか、何をされたのか、そのときあなたはどう対応したのか、などが選択のチェック方式で記入できるようになっている。


このパックに対応して、ワークショップの様子などもビデオで見ることができる。どうやら警察官がワークショップに関与してくれているようだ。会場内での練習だけではなく、警察に行って窓口に話しを伝えるシミュレーション場面も映されていた。


以上が、たいへんかいつまんだかたちでのPIPパックの紹介である。既に日本でも類似したワークショップを行っているところもあるだろうから、学ぶべきところは学んでいけばよいのだろうと思う。
 

*1:正直に言うと、中身が多いのは悪いことではないが、しかし多けりゃいいってもんじゃないのでは、とも思う。用途に合わせた質と量を考える。

*2:MENCAP:英国の知的障害者本人と家族の団体

*3:他のレポートなどもけっこう厚かったりする>英国